かひのしづく

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ロンゲスト・ジャーニー

📖作者の同性愛傾向が感じ取れる名作🐰

『ロンゲスト・ジャーニー』という作品について、作者のE.M.フォースターは「書いたことを最も喜んでいる作品」と述べていたようです。

個人的な感想ですが、作品の完成度、という意味では『ロンゲスト・ジャーニー』はハワーズ・エンド』などの著名な作品には及ばないのかもしれません。

ただ、フォースターは主人公のリッキー・エリオットに、作者自身と同じ同性愛の傾向をもたせ、それを、当時の社会で許される範囲で表現しています。

それは、ケンブリッジ時代の親友アンセルとの友情や、片親違いの弟、野生児であるスティーヴンとの交流の中に、それとなく、ですが非常に生き生きと描かれています。

また、リッキーを取り巻くその他の登場人物がそれぞれ担う、作中での役割も重要です。

フォースターの作品を読んでいると、しばしば「場所(土地)」へのこだわりが感じられ、「どの場所に属しているか」が、その人物の生き方に影響する、極端に言えば、どこに住んでいるかで、その人物が、社会のどのような人の群(或いは属性?)を代表しているかが分かるように描かれている、そんな風に感じられます。

そういう意味で、リッキーがもともと属していた「ケンブリッジ」と対照的な場所として描かれるのが、リッキーが結婚後に暮らすことになる「ソーストン」でしょう。

ソーストンに属しているのは主に二人の人物。決して頭は悪くなく、正しく生きようという気持ちは持っているのに、なぜか愚かで真の愛とも無縁になってしまっているリッキーの義理の兄ハーバート、そしてリッキーとの結婚に失敗したことをおそらく自覚しながらも、怠惰ゆえにリッキーの元にとどまる妻アグネスです。

真の喜びがある場所、真の友情をはぐくんだケンブリッジから出て、決して自分が真に属すべき場所ではないソーストンで暮らすことになるリッキーの人生は、やがて破綻をきたしますが、ハーバートもアグネスも、世間的にみれば決して「悪人」ではないところにも、現実の残酷さが表れているのかもしれません。